領域概要

 分子生理学的観点から「脳」という臓器を考えると、核磁気共鳴機能造影画像法の技術革新などもあり、脳血流動態の可視化などの「マクロな機能解析」が可能となり、脳機能変 化という視点から中枢神経系(CNS)疾患の理解が進んできています。一方で、CNS疾患に直接的に関与している脳分子の同定や仕組みといった「ミクロな分子情報」は未だブラックボックスの中にあります。例えばCNS疾患の一つであるうつ病の病態生理はいまだに未解明なことが多く、客観的な診 断基準も存在しません。これは、ヒト脳は生検できないことに加え、採取が容易な血液へは脳分子が移行しにくいために、ヒト生体脳における分子動態をモニタリングする技術が無いことが原因の一つであると考えられます。透析プローブを外科的に脳局所へ挿入し生体脳内から分子を回収する微小透析膜法が確立されていますが、生体脳に損傷を与えてしまうことに加え、回収可能な分子に制限があるため、ヒトへの応用は限定的です。すなわち「非侵襲的な手法によって生体脳から 脳分子を回収し、その情報を網羅的に解析する」方法論の確立は、分子情報に基づいた脳機能・疾患に関する理解を深めるための核心技術であり、未だ達成 されていない挑戦的な課題です。

 本学術変革領域「脳分子探査」では、高効率に脳内送達可能な高分子集合体 (ナノマシン)を要素技術とし、さらに「血液脳関門(BBB)を効率的に通過」し、「脳分子を回収」、さらには「血液中に帰還」することで、脳分子情報を 知らせる『はやぶさ型ナノマシン』を構築し、CNS疾患の革新的診断法へと展開し、脳内外の物質移動研究に新たな学術的視点をもたらすことを目的としています。本領域研究により、様々な脳機能や疾患を生体脳内分子の変化に基づき理 解することが可能となり、脳分子情報に基づく脳機能・疾患の理解という観点から学術的変革・転換をもたらし、新たな研究領域を開拓します。